ミシガン・ベイシンの一部 ナイアガラの滝
ナイアガラの滝 ミシガン・ベイシンの一部

ミシガン・ベイシンを知ったきっかけ

地図を見ていると、ミシガン湖の西岸から北岸の半島やオンタリオ湖とヒューロン湖の間に、①マニトゥーリン・アイランドから③ブルース半島にかけて(下図Fig.1を参照)弧を描くような地形があることに気が付いた。この地域には良く行って、そのたびに特徴的な地形を見つけ、鉱物や化石の産地もあったので調べてみようと思っていました。調べるにつれて、かなり面白い場所であることがわかり、沢山の点がつながって線になるように結びつきました。そして、そのそれぞれがミシガン・ベイシンの一部であることが分かりました。

ミシガン・ベイシン平面図
Fig.1 ミシガン・ベイシン平面図
タイトルをクリックすると記事へ移動します。
マニトゥーリン・アイランド
フラワーポットアイランド
ブルース半島
コリンウッド
ラファージカレドンピット
ダンダスクオーリー
リンカーンクオーリー
ナイアガラの滝
ケトルポイント
アルコナ
ペトロリア

ミシガン・ベイシン(Michigan Basin)

アメリカ合衆国のミシガン州は、西のミシガン湖と東のヒューロン湖に囲まれた半島で、カナダのオンタリオ州から見ればヒューロン湖を隔てた西隣の州です。(上図 Fig.1)
ミシガン・ベイシンは、ミシガン州のGladwin地区を中心に 南北570km 東西513kmの同心円状に広がる地層で、同地区の地下4,267mには最大深度の基盤岩があり、堆積盆地の中心になっています。基盤岩は先カンブリア代の結晶質の珪岩などで構成されています。ベイシンは地向斜とも呼ばれ、大陸周辺部にみられるミオ地向斜に分類されます。周囲の山脈から運搬された堆積物の重みで基盤岩が沈降していく状況が、長期にわたって続いて形成されたと考えられています。ミシガン・ベイシンの層厚は4,267m。先カンブリア代の基盤岩に、カンブリア紀からジュラ紀後期までの堆積岩が2億4,300万年間にわたって堆積している地域です。

ベイシン Basin

ベイシン(地向斜)は岩層の種類や位置などによって幾つかに分類されて、その中でも大きく二つに分けられている。
ミオ地向斜(miogeosyncline)大陸周辺部に沿って形成され、石灰岩、砂岩、頁岩などの堆積岩から構成される。
ユー地向斜(eugeosyncline)は、深海で形成される。硬砂岩、チャート、粘板岩、凝灰岩、深海性溶岩などで構成され、変形が激しく火成岩の貫入が多い。

ミシガン・ベイシン 堆積盆地の形成

ミシガン・ベイシンの基盤岩は、27億年前(始生代) Arctica超大陸 の一部だった、カナダ楯状地(カナダディアン・シールド)でした。Arctica 大陸は分裂や衝突を繰り返し、形を変えながら、Nina(18億年前) 、Columbia(15億年前)、 Rodinia(10億年前)などの大陸として存在しました。
北米大陸を含む大陸塊の東部が、カンブリア時代の後期海洋プレートにもぐり沈み込み、水平方向の力を受けた大陸塊の内陸だったミシガン・ベイシンは、沈降して次第に海になり砂の堆積が始まりました。
最も堆積物が多かったのは、オルドビス紀後期からシルル紀、さらにデボン紀の後期にかけてです。オルドビス紀後期はタコニック造山運動によって東部にタコニック山脈ができ、莫大な量の土砂がミニガン・ベイシンに運ばれしました。

シルル紀には山脈の浸食が終わり、土砂が運ばれなくなった結果、綺麗な海の時代になりました。また、カンブリア紀後期からデボン紀にかけてのミシガン・ベイシンは、赤道に近い場所に位置していました。現在のカリブ海のようにサンゴ礁が発達した海の時代が約1億2千万年間続き、水深の変化に対応した異なったタイプのサンゴ礁がシルル紀からデボン紀にかけて発達し、分厚いドロスローン(苦灰岩)やライムストーン(石灰岩)の地層を形成したのです。その後の石炭紀からジュラ紀には、海から陸の時代になりました。

ミシガン・ベイシンの地質年代表
Fig.2 地質年代表

◆カンブリア紀のミシガン・ベイシン

カンブリア紀のミシガン・ベイシンは安定陸塊*(アークティカ大陸)の
沿岸部分に位置し、東部の海洋プレートに押されて南部オンタリオ州はゆっくり沈降し、全体に均質な堆積を続けていた。
カンブリア紀には砂質苦灰岩、石英砂岩、砂質海緑石*質苦灰岩などが堆積している。

*海緑石Glauconite=浅海性の堆積岩にだけ含まれる雲母類のひとつ。
*安定陸塊=地球を広く覆う海洋プレート(マフィック岩)に対し、
大陸部や浅海部を伴い変化を受けにくく、分厚く安定したプレート(フェルシック岩)の事を言う。

カナダ北東部の地向斜 ミシガンベイシン
Fig.3
タコニック造山運動時のベイシンとアーチ
赤い線はアーチ(鞍部)数字は水深m
緑の部分は地殻が湧き上がる地溝帯

◆巨大山脈と大海盆

約5億5,000万年前 カンブリア紀末、Iapetus海が閉じていきアークティカ大陸(古北米大陸)にバルティカ大陸(現在のユーラシア大陸の北西部)が近づき始めた。5億4,300万年前、タコニック造山運動が始まった。大陸プレートと海洋プレートの衝突でアークティカ大陸の東岸は海洋プレートへ沈み込んでいった。潜り込んだプレートはマントルの熱で溶かされ、含んでいる水が融点を下げマグマの塊となって上昇し、大陸の沖合に火山列島をつくった。火山列島はつながって半島になり、半島の西側の海が窪んでアパラチアン・ベイシン(後のアパラチアン山脈)が形成された。5億年前、半島は北東から南西へ延びるタコニック山脈となり、山脈は浸食されて西側の海にキャッツキルデルタをつくった。同時期にはアパラチアン・ベイシンは大量の堆積層がたまった。海洋プレートと大陸塊はさらに押し合って、タコニック火山山脈とアパラチアンベイシンの堆積物は一体になり、大陸へ乗り上げて巨大山脈ができた。巨大山脈の海抜はヒマラヤ山脈より高かったと考えられている。4億4,400万年前、タコニック造山運動が終わって、巨大山脈は浸食されていき平準化した。その一部は現在のアパラチアン山脈の中に残っている。

アパラチアン山脈
Photo1
アパラチアン山脈 トロントからワシントンDCへ向かう飛行機から

褶曲を受けた頁岩
Photo2
アパラチアン・ベイシンの頁岩

タコニック造山運動は北米東部沿岸をしわくちゃで分厚くしたが、造山運動が始まる前から東の海洋プレートが押していた。
水平方向の力は固い大陸塊にアーチ構造や窪地Basin(ハドソンベイ・ベイシン、ムースリバー・ベイシン、アパラチアン・ベイシン、ミシガン・ベイシン)を造った。

アパラチアン・ベイシンは前縁盆地(地向斜)とも呼ばれ、タコニック山脈と並行して存在する地向斜である。東部の火山列島のそばにあり成長を続ける列島の堆積物が12,000mも堆積した。アパラチアン・ベイシンは堆積前から深かったのではなく、東側の半島が押されてゆっくりした沈降が起こり、同時に火山列島を伴う半島から莫大な量の堆積物が沈積し沈降したからである。アパラチアン・ベイシンの堆積物は、その後の造山運動で大陸に取り込まれタコニック巨大山脈となった。巨大山脈は西方にあったミシガン・ベイシンへ堆積物を供給してデルタを造った。同心円状の堆積物が水平方向の力を受けず、際立った厚さの堆積物が残ったのが、ミシガン・ベイシンである。主にオルドビス紀、シルル紀、デボン紀の堆積物が残っている。アパラチアン・ベイシンは現在のアパラチアン山脈となり石炭・石油・ガスの産地になっている。

ミシガン・ベイシン断面図
Fig.4
ミシガン・ベイシン断面図

年代ごとの地殻変動の経過

・後期カンブリア紀(5億年前)

北米大陸(アークティカ大陸)は東側に移動し、海洋プレートは西にじわじわと押し寄せていた。
この頃のミシガン・ベイシンは広い海洋の中にあった。

・前期オルドビス紀(4.85億年前)

アークティカ大陸の東の海上に、点々と連なった小さな火山島が出来始める。

・中期オルドビス紀(4.7億年前)

東の島々は繋がって幾つかの大きな島になる。
スペリオル湖やヒューロン湖は海底であるが、近縁の陸地が弧状になっていく。

・後期オルドビス紀(4.5億年前)

島はさらに繋がり大陸の北東に大きな半島が出来き、
その南には細長い列島ができる。

・前期シルル紀(4.3億年前)

大きな半島の西にはキャッツキルデルタが出来始める。
半島の西側は沈みアパラチアン・ベイシンができる。
ミシガン・ベイシンは東部付近にシンシナティ―・アーチ(Cincinnati Arc)ができ、
丸い湾の奥になる。

・後期シルル紀(4.2億年前)

半島にはアカディアン山脈という長い山脈になる。

・前期デボン紀(4.0億年前)

半島は幅が広くなりさらに高い山脈になる。
ミシガン・ベイシンは丸い湾の状態である。

・中期デボン紀(3.85億年前)

半島は幅が広くなる。
ミシガン・ベイシンは前期デボン紀と同じ丸い湾である。
東から半島を構成するアカディアン山脈、アパラチアン・ベイシン、
シンシナティ―・アーチ(隆起して半島になる)、さらにミシガン・ベイシンと
その南部のイリノイ・ベイシンが存在している。

・後期デボン紀(3.6億年前)

東部からさらにバルティカ大陸が近づき、
アカディアン山脈とアパラチアン・ベイシンの堆積物が一体になる(タコニック山脈)

・前期ミシシッピアン紀(3.45億年前)

バルティカ大陸はさらに近づきタコニック山脈はエベレストよりも高い巨大な山脈になる。
ミシガン・ベイシンは陸地になる。

・後期ミシシッピアン紀(3.25億年前)

タコニック山脈は次第に浸食され堆積物は西側へ運ばれる。
ミシガン・ベイシンは浅い海になる。

・前期ペンシルバニアン紀(3.15億年前)

ミシガン・ベイシンの北は陸地になりタコニック山脈の土砂が堆積する。
南は比較的浅い海になる。

・後期ペンシルバニアン紀(3億年前)

ミシガン・ベイシンは陸地になるが、大河が流れ込み洪水のたびに
タコニック山脈から運ばれた土砂が堆積する氾濫原に位置していた。

ミシガン・ベイシンの層序
Fig.5
古生代のミシガン・ベイシンの層序

◆オルドビス紀の南部オンタリオ州

ヒューロン湖の西とオンタリオ湖の東、そしてエリー湖の北に位置する南部オンタリオ州は、オルドビス紀中期のSimcoe Groupの堆積物に覆われている。
Simcoe Groupは、下部(古い時代)よりShadow lake, Gullriver, Bobcaygeon, Verulam, Lindsayなどの累層に分類され、それぞれ砂岩、石灰岩、苦灰岩、シルト、頁岩で構成されている。石灰岩層は過去にサンゴ礁があったことを示している。

オルドビス紀の時代、ミシガン・ベイシンは赤道に近い位置にあり、広大なサンゴ礁が広がり暖かい海水に覆われていた。これらのサンゴ礁は多様で、浅海の環礁、広大な堡礁(バリアリーフ=海岸に並行したサンゴ礁、海岸との間に礁湖Lagoonが存在する。)があり、沖合の深い海にはPinnacle reef(サンゴ礁の尖塔)があって、概ね現在のオーストラリアのグレートバリアリーフのような環境が広がっていた。

Simcoe Groupの上部を黒い頁岩層のBlueMountain (Whitby)累層(最大層厚60m)、Georgian Bay累層(最大層厚200m)とQueenston累層(最大層厚325m)が覆っている。 これらは後期オルドビス紀の地層である。
BlueMountain 、Georgian Bayなどの累層はナイアガラの滝の下流 Whirlpoolや
ナイアガラ峡谷の崖で良く見られる。 Georgian Bay累層(ブルー、グレー)は浅い海の頁岩で、トロント市のレンガ工場(Don Valley Brick Works)の中にグレーの頁岩が露出している。(下の写真 Photo3)

リップルマーク
Photo3
トロント市のDon Valleyレンガ工場 頁岩のリップルマーク
Georgian Bay累層(ブルー) 古生代 オルドビス紀4.85億~4.19億年前
(リップルマーク=漣痕 波で出来た縞模様)

Don Valley fossil
Photo4
トロント市のDon Valleyレンガ工場 頁岩中の化石
Georgian Bay累層(グレー) 古生代 オルドビス紀4.85億~4.19億年前

Queenston累層(最大層厚325m)は赤や緑色の頁岩である。タコニック山脈から大量に流れ込んだ泥の堆積物でクイーンストーンデルタを作っていた。
(下の写真 Photo5:Badland参照)

Queenston delta
Photo5
Cheltenham Badlands バッドランド
クイーンストン・デルタの地層 Badland Ontario Canada
Queenston累層 古生代 オルドビス紀4.85億~4.19億年前
タコニック山脈から流れ込んだ堆積物

Cheltenham Badlandsはトロントの北西の場所にあり、農地にする目的で草を刈り取ったところ、表土がむき出しになり浸食されてその後は植物が生えなくなったそうである。

大陸東岸のタコニック火山列島は安山岩の火山で、4.5億年前に起きた1度の噴火が1,200km3の噴出物を吐き出した。これまで最大規模と言われたインドシナのタンボラ火山の噴火(1815年)の噴出物は150km3、1883年に噴火したクラカトゥア火山の噴出物は18km3だったので、想像をはるかに超えた巨大な噴火だった事がわかる。

◆シルル紀のタコニック山脈の浸食とサンゴ礁の復活

シルル紀になると、タコニック山脈が浸食で平らになりクイーンストンデルタの堆積が終わった。海水は綺麗になり再びサンゴ礁の海に戻った。
この時代の地層は下部よりCabot Head/Grimsby累層(砂岩と頁岩)、Thorold /Reynalds累層(苦灰岩)、Irondequit累層(苦灰岩)、Rochester Shale累層(薄い石灰岩)が堆積した。

マニトゥーリンアイランド

地図上の位置(Fig.1) 番号①
ヒューロン湖の北東にミシガン・ベイシンの外周部になるマニトゥーリンアイランドがある。この島はオルドビス紀(北側)とシルル紀(南側)の地層で構成され、ナイアガラ・エスカープメントと呼ばれる断崖が島を縦断している。断崖は苦灰岩と石灰岩や頁岩が重なった地層が、巨大な氷河に削られて残ったもので、柔らかく脆い石灰岩や頁岩が浸食され、上部の苦灰岩が崩落し独特の崖になっている。また、島の沿岸は北東から南西へ岬が伸びているが、氷河が地表を削った痕である。ナイアガラ・エスカープメントはブルース半島からナイアガラの滝、さらにアメリカ合衆国のニューヨーク州まで続いている。(Fig.1 ②、③、④、⑤、⑥、⑦、⑧)
マニトゥーリンアイランドは新しい地層から古い地層が北西から南東へ帯状に伸びている。ヒューロン湖側が新しい地層で、北東へ向かうにつれ地層は古くなる。

マニトゥーリンアイランド
Fig.6 マニトゥーリンアイランドの地質
①オルドビス紀 Bobcaygeon累層 Photo10
②苦灰岩の丸い穴 Shadow Lake累層 Photo7
③Shadow Lake累層 Photo6
④Georgian Bay累層 Photo18
⑤苦灰岩の亀裂アルバ Photo20
⑥氷河期の削り痕のある岩 Providence Bay Photo22
⑦西のナイアガラ・エスカープメント Scott’s Bluff Photo21
⑧Meldrum Bay Photo23
⑨カナダで最大の鉱山 Meldrumbay Quarry Photo25

オルドビス紀の地層 Shadow Lake累層はシルトと頁岩の地層で、ミシガン・ベイシンの最下部の地層として先カンブリア時代の珪岩に不整合で重なる。
(下の写真 Photo6:Shadow Lake累層)
Shadow Lake累層
Photo6
Shadow Lake累層 島内の位置(Fig.6:①)
先カンブリア時代の緑がかったグレーの珪岩(手前下)の上に、
不整合に重なるオルドビス紀の濃い褐色のShadow Lake累層


Photo7
苦灰岩の丸い穴 Shadow Lake累層 島内の位置(Fig.6:②)
McGregor Bayの岸には、苦灰岩化したGull river 累層の表面に丸い穴が数多く残っています。この穴の成因は未だに興味深い疑問を残していますが、現在は氷河時代に運ばれた礫が原因であるとする説が有力です。
この場所には非常に多くの様々な丸い小石が見られ、主として先カンブリア時代の楯状地起源の石です。新生代第四期更新世(3百4十万年前)の氷河で運ばれて丸くなったのです。
この石がGull river 累層の表面に丸い穴をあけ、湖水の流出と波の浸食で石が持ち去られて穴が残ったと考えられています。

Shadow Lake累層の上にはGull River累層が重なっている。
Gull River累層は特徴的な明るい灰色で、下部は赤と緑の頁岩と苦灰岩の互層、上部は石灰岩になっている。苦灰岩の表面には割れ目が残っており、周期的に乾燥する時期があった事を示している。広大な干潟があって引き干潮で乾燥したと考えられている。このため苦灰岩には、泥に穴を開けて生息するミミズやヒルのような蠕虫(ぜんちゅう)の化石が多い。(下の写真 Photo9)
Gull River累層
Photo8
オルドビス紀Gull River累層
苦灰石化した白い石灰岩の下部層と、淡い褐色の石灰岩の上部層

ウミユリの茎
Photo9
ウミユリの茎、蠕虫(ミミズやヒル類)
Gull river累層は下部の明るいグレー色の石灰岩 下部方向に苦灰石化

マニトゥーリンアイランドの中央部はシルル紀のManitoulinとFossil Hill、北東部と沿岸部はオルドビス紀のUpper Lindsay, Blue Mountain, Georgian Bay, 本土へ続くLa Cloche島はShadow Lake, Lower Lindsay累層になっている。

Bobcaygeon累層
Photo10
Bobcaygeon累層 島内の位置(Fig.6:①)
暗いグレー色で薄く積み重なった部分と上部の頁岩と石灰岩
古生代 オルドビス紀中期

写真下部の4mの明るい灰色の層はGull River 累層の石灰岩である。この上をBobcaygeon 累層の薄くグレーの頁岩の互層と、石灰岩層が覆っている。

Bob caygeon累層は、主に石灰岩で浅海から深海で堆積した事を示し、現在のバハマの浅瀬や、メキシコ沿岸などの環境に似ていただろうと考えられている。浅瀬は緩やかに傾斜し、寄せる波が酸素を供給し多くの海の生物の繁殖を維持した。豊富に残る化石がそれを示しており、Brachiopod(シャミセン貝の一種) 、Gastropod(カタツムリの一種)、 Bivalve(二枚貝の一種)、Cephalopod(イカ・タコなどの頭足類)などの生物と、際立って多様なサンゴ類や非常に多くのタイプのStromatoporoid(層孔虫=円錐形の外観の大型海綿)が存在した。採集した化石には、たくさんのウミユリの茎、ホーンコーラルが見られる。

サンゴ、ウミユリの茎
Photo11
サンゴ、ウミユリの茎
Bob caygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

三葉虫
Photo12
三葉虫
Bob caygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

ガストロポッド
photo13
ガストロポッド
Bob caygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

ウミユリの茎
Photo14
ウミユリの茎
Bob caygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

ブラチオポッド
Photo15
ブラチオポッド
Bob caygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

Bobcaygeon累層
Photo16
風化した苦灰岩層
Bobcaygeon累層 古生代 オルドビス紀中期

Bobcaygeon累層の化石
Photo17
Bobcaygeon累層の化石
古生代 オルドビス紀中期

マニトゥーリンアイランドのGeorgian Bay 累層は、オルドビス紀の中で最も若い地層である。頁岩と石灰岩の互層は、上部に向うと分厚い石灰岩層になっていて、時間をかけて深い海から浅い海になったと考えられている。

Georgian Bay累層
Photo18
石灰岩と苦灰岩層 Georgian Bay累層 島内の位置(Fig.6:④)
古生代 オルドビス紀後期

Georgian Bay累層の化石
Photo19
Georgian Bay累層の化石
古生代 オルドビス紀後期

シルル紀の地層は、下部のオルドビス紀の岩と完全に違う形状を示している。オルドビス紀の地層は主に石灰岩だが、シルル紀は概ね苦灰岩で構成される。中でも黄褐色をした苦灰岩は、風化作用に耐性のある崖としての特徴を持ち、広大なナイアガラ・エスカープメントの最上部の地層でもある。サンゴ礁の化石を含み、その環境は現在のカリブ海や南西太平洋のサンゴ礁と類似している。主としてStromatoporoid(ストロマトポロイド)、サンゴ、Bryozoan(コケムシ)の化石が多く、この時代は3m未満の浅い海だった事がわかっている。古い順にManitoulin, Cabot Head, Dyer Bay, Wingfield, St.Edmund, Fossil Hill, Amabel累層がある。 Cabot Head累層は頁岩だが、他は苦灰岩である。

Fossil Hill 累層の時代は、浅い水深で塩分濃度が濃く数々の生物が繁栄したため、その名前の通り化石が多く含まれる。この累層は多孔質で、孔は死んだ生物の形のまま石英に置き換えられている。これは二酸化珪素を含んだ水が堆積物の孔に入りチャートの結晶になったもので、しばしば方解石化した化石と間違えられる。


Photo20
苦灰岩の亀裂 島内の位置(Fig.6:⑤)
道路の横に舗装したように平らな場所が開けている珍しい場所です。Amabel累層の苦灰岩がテーブル状になり、二酸化炭素を含んだ雨水が浸食して亀裂を作っています。このような地形はAlvar(アルバ)と呼ばれ、スウェーデン語でバルト海の地形を意味しています。新生代完新世(8千年から6千年前)の暖かく乾燥した時期にこのような亀裂が形成されたのですが、わずかな表土にヒノキ科の針葉樹と草が育つ植生もAlvar の特徴です。

スコッツ・バルフ
Photo21
スコッツ・バルフ ナイアガラ・エスカープメント 島内の位置(Fig.6:⑦)
マニトゥーリン・アイランド内にある湖岸の崖
Amabel累層 古生代 シルル紀


Photo22
氷河が削った岩が残る Providence Bay 島内の位置(Fig.6:⑥)
マニトゥーリンアイランドのの南、Providence Bay の東岸にはAmabel 累層の岩棚があります。カナダ全土とアメリカ北部は新生代第四期にLaurentide 氷床に覆われましたが、その氷河が移動しながら岩を削った痕跡が残っています。

ヒューロン湖に面したマニトゥリンアイランドの南西部は、
シルル紀の中で最も若いAmabel累層の苦灰岩が、テーブル状に露出している。
(下の写真:メルドラムベイ)
ヒューロン湖側のメルドラムベイ
Photo23
ヒューロン湖側のメルドラムベイ 島内の位置(Fig.6:⑧)
Amabel累層 古生代 シルル紀

Amabel累層は苦灰岩で南部沿岸に露出し、サンゴ類の化石が多い苦灰岩である。
異なったタイプの化石が数多く見られ、Brachiopod(シャミセン貝の一種)、 Bivalve(二枚貝の一種)、Crinoid(ウミユリ)の化石を含んでいる。
25mから45mの層厚がある。
ガストロポッド
Photo24
ガストロポッド
Amabel累層 古生代 シルル紀

Lafarge マニトゥーリン鉱山
Photo25
マニトゥーリン鉱山 カナダで最大の鉱山 島内の位置(Fig.6:⑨)
Meldrumbay Quarry
Amabel累層の苦灰岩 古生代 シルル紀

島の西にカナダで最大の採石場がある。Meldrumbay Quarry。
フランスのセメントメジャーLafage(ラファージュ)の採石場で、
広大な森林を切り開きAmabel累層の苦灰岩を採石している。

この苦灰岩は硬く、アスファルトやセメントと親和性があるため、道路や建設の骨材として、五大湖を利用してアメリカやカナダへ船で運ばれている。また、水平と垂直に割れる性質があることから、川や海の護岸と道路のガードレール代わりにも使われている。フェリーの港サウスベイ・マウスでは防波堤に使われており、フェリーの発着を待つ間に化石を見つける事ができます。

Lafarge マニトゥーリン鉱山
Photo26
Meldrumbay Quarry マニトゥーリン鉱山

ヒューロン湖岸に立地し、砕かれた苦灰岩はコンクリート骨材用として、
このような巨大なタンカーに積まれ、5大湖の主要都市に運ばれる。

◆石灰岩と苦灰岩

サンゴなどのカルシウムが堆積した場合には石灰岩になるが、海水中にマグネシウムが含まれていた場合にマグネシウムの交代作用がおきて苦灰岩になる。
また、最初から苦灰岩として堆積したものもある。
柔らかいシルル紀の石灰岩は、風化に耐える苦灰岩になる。
苦灰岩はナイアガラ・エスカープメントの中でもマニトゥーリンアイランドやナイアガラ地域で採石され、道路や建物の材料として使われたり、ブルース半島やワイアートン近郊では石材として採掘され磨かれている。

ナイアガラ・エスカープメント(Niagara Escarpment)

総延長が1609kmの断崖(エスカープメント)が、ミシガン湖の西岸のドア半島、マニトゥーリン・アイランド、ジョージアン・ベイの湖底から、ブルース半島、オンタリオ湖の西の町ハミルトン、ナイアガラ地方やアメリカ合衆国のニューヨーク州まで延びています。

ナイアガラ地方を模式地とする断崖の地形は、重要な生物群集を育み、1990年にユネスコの世界生物圏保護区に指定されました。ブルース半島からナイアガラ・エスカープメントに沿って延びているブルース・トレイル(Bruce Trail)は、800km以上もある自然散策路です。国立公園や州立公園と数多くの保全地区、自然保護区、森林地区などがあり、季節ごとに豊かな自然の中を歩く事が出来ます。
ナイアガラ・エスカープメント断崖は下部に位置するオルドビス紀(五億一千万年前)と、上部のシルル紀(四億一千百万年前)の、主に熱帯の海の地層で構成されています。
当時の陸上は植物や動物が存在する前の時代で、珊瑚礁の海は三葉虫、ブラチオポッド、ウミユリなどの生き物があふれていました。珊瑚などの生物の殻は炭酸カルシウムでできており、堆積後の圧密作用と熱や化学的作用で分厚い石灰岩層となります。炭酸カルシウムがマグネシウムを含んでいれば苦灰岩になります。粘土は頁岩に、砂は砂岩となり、ナイアガラ・エスカープメントの地層を構成しています。

◆ウイスコンシン氷河期

2万3,000年前~1万2,000年前、中央部が3,000mの厚みがある、巨大なカメの甲羅のような形をしたローレンタイド・アイスシート(氷床)が,カナダ中央部から東部を覆っていました。西部のバンクーバーやグリーンランドも、別の氷床の下になっていました。
当時の海面は現在より150mも低く、桁外れの大きさの氷床は、地表の岩石を沈下させたり気候が温暖になるにつれて移動し、通り道の岩石を浸食をして、大地に大きな影響を与えました。溶けた水が大きな氷河湖を作り、氷河湖からあふれて出る水が大地を削って渓谷を作りましまた。カナダのオンタリオ州はローレンタイド・アイスシートが融けて流れたことにより平らに削られており、氷河が運んだ堆積物、氷河の移動が残した筋状の地形、融けて溜まっていた莫大な量の水が一気に流れた事による峡谷などがあります。また、巨大な氷の塊が残っった痕が窪地となり湖になった場所もあります。

ナイアガラ・エスカープメントの断崖は断層によってではなく、移動する氷河の重みで地質構造の弱い部分が削られました。その後、下部の頁岩や砂岩が風化で崩れ、上部の硬い苦灰岩や石灰岩が残り垂直な崖が形成されました。
さらに下部の崩落が進み崖が深くえぐられると、上部の苦灰岩や石灰岩が崩れ落ちます。
また、ローレンタイド・アイスシートは、その重みと移動により地質強度の弱い部分を削って、現在の五大湖の底部を形成したと言われています。

フラワーポットアイランド

地図上の位置(Fig.1) 番号②
ブルース半島の先端にはトーバーモーリー(Tobermory)の港があり、マニトゥーリン・アイランドのサウスベイマウスまでフェリーが運航されてる。トーバーモーリーの沖にフラワーポットアイランドと周辺の島がある。澄んだ水のヒューロン湖やジョージアン・ベイと共に ファゾムファイブ・ナショナル・マリンパーク(Fathom Five National Marine Park)と言う国立公園になっている。東西2.2km、南北1.5kmの無人の島でトーバーモーリーの港から観光船とゴム製モーターボートに乗って島に上陸することができます。
フラワーポット
Photo27
フラワーポット・アイランドのフラワーポット
苦灰岩 古生代 シルル紀

フラワーポット・アイランドの化石
Photo28
フラワーポット・アイランドの化石
古生代 シルル紀

フラワーポット・アイランドは水位が低かった一万二千年前の氷河期からその後の間氷期において浸食を受け、美しい景観が残っている。島の標高は44mだが、湖面から14mの場所に水の浸食を受けで出来た洞窟が残っている。島の東に写真(Photo27)のような植木鉢に似た、「フラワーポット」と呼ばれている岩が大小2つある。周囲の岩が波で削られて出来た。また東岸の水中には90mの断崖があり、氷河期に氷の移動によって削られた崖であることがわかっている。

この島はヒューロン湖の温度や湿度の影響を受けてランやシダ類が多い。特にランは20種以上が島内に生息している。訪れたのは6月だったが霧が立ち込めて涼しい1日だった。初めて島に入ったが、運が良いことに林の枯葉の中に、ホテイラン(Calypso)とストライプド・コーラル・ルート(Striped Coral Root)を見つけた。

ストライプド・コーラル・ルート
Photo29
ストライプド・コーラル・ルート
フラワーポット・アイランド

布袋蘭
Photo30
布袋蘭(Calypso) フラワーポットアイランド

ブルース半島

地図上の位置(Fig.1) 番号③
マニトゥーリンアイランドに向かって伸びた細長い半島で、中期シルル紀の苦灰岩で形成されている。半島の先端にトーバーモーリーの港がある。港の南東にブルースペニンスラ国立公園があり、ジョージアンベイの湖岸に沿って、高さ220mの苦灰岩の断崖が続いている。断崖の上や湖岸を歩いていると、シルル紀の化石を頻繁に発見する事が出来る。

トーバーモーリーを基点とするブルース・トレイル(Bruse Trail)は苦灰岩の断崖に沿って続き、断崖から望むジョージアン・ベイや、波に侵食された美しい自然が残されている。

ブルースペニンスラ・ナショナルパーク

トーバーモーリーの港の南東にある国立公園で、ジョージアン・ベイの湖岸に沿って、高さ220mの苦灰岩の断崖が続いています。トレイルを歩いていると、シルル紀の化石を頻繁に発見する事が出来ます。
ブルース・トレイル(Bruse Trail)は苦灰岩の断崖に沿って続き、断崖から望むジョージアン・ベイや、湖水に侵食された美しい天然のプールは、驚くばかりの美しい自然の造形です。松林と岩壁に囲まれた湾は人里の喧騒が全く聞こえず、波の音と綺麗な鳥の声だけが聞こえる場所です。

デボン紀の苦灰岩
Photo31
デボン紀の苦灰岩
ジョージアンベイ ブルース半島国立公園

デボン紀の苦灰岩
Photo32
デボン紀の苦灰岩
ジョージアンベイ ブルース半島国立公園

デボン紀 苦灰岩中の化石
Photo33
デボン紀 苦灰岩中の化石
ブルース半島国立公園

苦灰岩の崖
Photo34
波の浸食を受けた苦灰岩の崖
オルドビス紀 ブルース半島国立公園

コリンウッド

地図上の位置(Fig.1) 番号④
この地域のナイアガラ・エスカープメントは標高約400mで緩やかな斜面を持つ。湖岸の別荘地コリンウッド(Colling wood)の南にナイアガラ・エスカープメントの一部のブルーマウンテンがある。
平らなヒューロン湖の沿岸はオルドビス紀のLindsay累層が広がる。
ブルーマウンテンは下部から次の地層が重なっている。
オルドビス紀のWhitby, Georgian bay, Queen ston, シルル紀のClinton Cataract Group,  山頂部のAmabel累層。

ブルーマウンテン
Photo35
ブルーマウンテン コリンウッド

コリンウッド 三葉虫の化石
Photo36
コリンウッド 三葉虫の化石
Lindsay累層 古生代 オルドビス紀

サンゴの化石
Photo37
サンゴの化石 コリンウッドの港

クレイグリーシュのオイル

1859年、コリンウッドの商人が、現在のクレイグリース州立公園(Craigleith Provincial Park)付近でオイル事業を始めた。当時の家庭や街頭の照明は、鯨の油が使われていて、彼のオイルは鯨の油に代わるものとして需要が増えた。

オイルは頁岩を砕いて加熱し蒸留する方法で抽出された。平らな湖岸の頁岩は、マニトゥーリン・アイランドにも分布しているオルドビス紀 Upper Lindsay 累層である。 この地層は酸素の少ない湖底に生物の死骸が堆積したもので、その有機物が堆積の圧力や熱でオイルの素(ケロゲン)になっている。
30~35トンの砕いた頁岩を釜に入れて、薪を燃やして蒸留した。そして一日950リットルの天然のオイルが生産された。
このようなオイルの生産方法は画期的で、オンタリオ州の歴史に残っているが、1863年にはオイルの生産はいきなり廃止された。
オンタリオ州南部のペトロリア⑭で油田が見つかり、効率の悪い製法が競争にならなかったのである。
クレイグリース州立公園は頁岩が広がった湖岸で、キャンピングカーやテントで宿泊が出来る。夏の湖岸は水遊びやノンビリと日光浴をする人が多い。

オルドビス紀の化石がよく見つかるので観察している人を良く見かける。三葉虫、筆石、腕足類、頭足類(アンモナイト類)の化石が見つかるが、特に三葉虫のお尻の部分がたくさん見られる。これは三葉虫が死んで死骸が海底に堆積した事を意味しており、三葉虫の死骸が前出の頁岩オイルの成分になった事が理解できる。

クレイグリーシュの化石産地
Photo38
クレイグリーシュの化石産地
Lindsay累層 古生代 オルドビス紀

クレイグリーシュの三葉虫
Photo39
クレイグリーシュの三葉虫
Lindsay累層 古生代 オルドビス紀

ナイアガラの滝

地図上の位置(Fig.1) 番号⑧
ナイアガラの滝は、世界3大瀑布の一つで、イグアスの滝やビクトリアの滝と共に多くの観光客が訪れている。暖かい季節には霧の乙女号で滝を見たり、滝の横の壁面のトンネルから、轟音をたてる滝を身近に見る事ができる。
ナイアガラ地方では、オンタリオ湖の湖岸と平行に、ナイアガラ・エスカープメントが延びている。暖かい季節、オンタリオ湖の湿った空気が、標高180mから200mのナイアガラ・エスカープメントにぶつかり、冷涼な空気になり地表に沿って湖岸を移動する。その気流と北緯43度(北半球のワイン産地は北緯38から49度)の気候、そして古オンタリオ湖の土壌が、葡萄の生育に大きく寄与している。

1万2,000年前(新生代第四紀 完新世)、ローレンタイド氷床が解け始めた頃、古オンタリオ湖(Lake Iroquois)には、古エリー湖(Lake Warren)、ウエインフリート湖(Lake Wainfleet)、トナワンダ湖(Lake Tonawanda)からの水が流れ込み、ナイアガラ地方を削っていた。

現在の峡谷、ナイアガラ・ゴージ(Niagara Goge)はオンタリオ湖がイロコイ湖だった頃から滝があった。その滝は次第に南へ移動して現在のナイアガラの滝になった。ナイアガラの滝は、もろい頁岩層と上部の固い苦灰岩の崩落を繰り返し、長い年月をかけて11kmも南へ移動して現在の位置になった。
ナイアガラ・カナダ滝
Photo40
ナイアガラ・カナダ滝
シルル紀 苦灰岩と頁岩

ナイアガラ・アメリカ滝
Photo41
ナイアガラ・アメリカ滝
シルル紀 苦灰岩と頁岩

ナイアガラの滝 崖の地層
Photo42
ナイアガラの滝の裏側から見た崖の地層
古生代 シルル紀

ナイアガラ地方のオンタリオ湖側の斜面は、暖かい季節オンタリオ湖の湿った空気が、標高180mから200mのナイアガラ・エスカープメントにぶつかり、冷涼な空気になって地表に沿って湖岸に降りて来ます。そのような気流と北緯43度(北半球のワイン産地は北緯38から49度)の気候とオンタリオ湖の苦灰岩や頁岩の風化した土壌が良い葡萄を育み、世界的に有名なナイアガラ・ワインの産地になっています。

アイスワインの葡萄畑
Photo43
アイスワインの葡萄畑
ナイアガラオンザレイク

ナイアガラ地方の化石と鉱物産地

ナイアガラ半島鉱物クラブが開いた鉱物ショーで海サソリの化石(Eurypterus Lacustris)が展示してあった。海サソリは、オルドビス紀後期からシルル紀、デボン紀にかけて珊瑚礁に生息していた肉食の節足動物です。
2mを超える大きい化石があり、過去から現在まで生息した節足動物として最大だった。
*節足動物=昆虫、カニやエビなどの甲殻類、クモ、ムカデなど。三葉虫も含まれる。
海サソリ
Photo44
海サソリ 古生代 シルル紀

ダンダスクオーリー

地図上の位置(Fig.1) 番号⑥
オンタリオ湖西岸の港町ハミルトン(Hamilton)にある、フランスのセメントメーカー ラファージュの採石場。ナイアガラ・エスカープメントの苦灰岩を採掘しており、95トン積みの巨大なダンプトラックが置いてある大規模な採石場である。主としてコンクリートの骨材用として苦灰岩が採掘されている。

ここで採取される石は、生物の遺骸の成分が含まれる瀝青質(天然アスファルト、タール、ピッチ)の苦灰岩質石灰石に分類される。最上部は主としてGuelph Formationの石灰岩で製鉄用の冶金グレードの石灰石である。最下部は主にEramosa Formationの苦灰岩である。
この鉱山には鉱物が多く、化石は少ない。
多くの鉱物は石灰岩と苦灰岩の接触部分で見つかる。

採集できるのは、次の鉱物。
方解石、天青石、蛍石、硬石膏、閃亜鉛鉱、方鉛鉱、黄鉄鉱、白鉄鉱、石英、透石膏、ストロンチウム石、苦灰石、黄銅鉱、磁硫鉄鉱、霰石、緑礬。
ダンダスク・オーリー
Photo45
ダンダスク・オーリー

直角貝
Photo46
直角貝 ダンダスクオーリー
古生代 シルル紀

透石膏
Photo47
透石膏 ダンダスク・オーリー

化石の炭酸カルシウムが結晶化
Photo48
化石の炭酸カルシウムが結晶化

天然タール
Photo49
天然タールと結晶化した化石
ダンダス・クオーリー
タールを含む苦灰岩

天然タール
Photo50
天然タール ダンダス・クオーリー

リンカーンクオーリー

地図上の位置(Fig.1) 番号⑦
鉱物クラブ(CCFMS)のメンバーと行ったナイアガラ地方のビームズビル(Beamsville)の採石場である。リンカーン・クオリー(Lincoln Quarry)もナイアガラ・エスカープメントの地層から、コンクリート用骨材などの苦灰岩を採掘している。雪のかたまりのような石膏がシルル紀の苦灰岩に含まれており、オルドビス紀の石灰岩にはサンゴなどの化石を見つける事が出来た。
リンカーンクオーリーでは以下の鉱物が採集できる。
石灰岩、苦灰岩、重晶石、天青石、透石膏、方鉛鉱、白鉄鉱、黄鉄鉱、閃亜鉛鉱、蛍石、磁鉄鉱。
リンカーン・クオーリー
Photo51
リンカーン・クオーリー

リンカーン・クオーリー
Photo52
リンカーン・クオーリー

リンカーン・クオーリーの黄鉄鉱
Photo53
黄鉄鉱 リンカーン・クオーリー

透石膏
Photo54
透石膏 リンカーン・クオーリー

石膏
Photo49 石膏
リンカーン・クオーリー

苦灰石結晶
Photo55
苦灰石結晶 リンカーン・クオーリー

ビームズビル

ビームズビルはオンタリオ湖の最も西にある港町ハミルトンとナイアガラ地方のほぼ中間に位置する。トロントからナイアガラ方面に向かう道路のクイーンエリザベスウエイの南にある。ナイアガラ・エスカープメントの中にあり、採石場リンカーンクオーリーの北に位置している。天気が良い日はトロントのCNタワーが見える。
クイーンエリザベスウエイから上り坂の道を超えてビームズビルへ上ると、平らな平原になっている。北側のオンタリオ湖側は浸食による谷があり化石を見つける事が出来る。
ビームズビル
Photo56
ビームズビル
ナイアガラ・エスカープメントの上から、北側のオンタリオ湖を望む

◆アカディア造山運動とシルル紀の海

シルル紀後期4億1,000万年前にローレンシアとアバロニア大陸が衝突し、アカディア造山運動が起た。この造山運動は古生代中期3億7,500万年前~3億2,500万年前まで続き、北米東部は再び圧縮された。3億6千万年前にはオンタリオ州にも水平方向の力が加わり始めた。
アカディアン造山運動は、Findlay – Algonquin Arch(Fig.3)を隆起させ、浸食された山脈の泥が流れ込みミシガン・ベイシンのサンゴ礁を絶滅させた。

浅く切り離された海は、赤道付近の乾燥気候が続きミシガン州のSalina 累層 (最大層厚330m)などの蒸発性堆積物を造った。(Salina=乾燥した塩湖の意味) ミシガン州のWindsorとGoderich ではシルル紀のSalina formationから年間1千万トンの岩塩が採掘される。

◆デボン紀の海

デボン紀に入ると海はさらにサンゴ礁が発達し、腕足類、ウミユリ、三葉虫、直角貝が生息した。その後アカディア造山運動が進むにつれて浅い海は次第に深くなった。新しい石灰岩がデボン紀の前期から中期にかけて堆積した。
魚類が出現し、ナイアガラ地域のエリー湖に近いPort Colborneの採石場のBert累層 とBois Blanc累層で甲冑魚の化石が見つかった。

Bois Blanc累層で構成されたオノンダガ・エスカープメントは大部分が氷河堆積物に覆われている。サンゴ礁が形成される環境がデボン紀の全般で続き、その環境はOnondaga累層, Dundee 累層とHamilton Groupの化石を含む石灰岩に記録されている。

アカディア造山運動の全盛期はデボン紀末期で、アカディアン山脈が押し上げられた時期である。カナダ楯状地の上に堆積していた地層が西方から押し上げられ、現在のアパラチア山脈のように激しく褶曲した地質構造ができた。海底だったオンタリオに膨大な量の泥や砂が運ばれて大きなデルタ(Catskill Delta)を造った。内陸の海は浅くなり豊富な有機物を含んだ頁岩が堆積した。

ケトルポイント

地図上の位置(Fig.1) 番号⑨
デボン紀後期の海
写真は南西部オンタリオのランブトン沿岸、ケトルポイントに露出しているKettlepoint 頁岩と大きな大砲の玉のようなノジュールである。やかんのような形からKettleと呼ばれる。

デボン紀後期は湿気を含んだ西向きの風がアカディアン山脈の東方に雨を降らせ、山脈の西方では乾燥した風となって、大陸の内陸部(南部オンタリオ、ミシガン、オハイオ州)に広大な乾燥地帯を造ったと考えられている。

水深200m程度で流れがなく貧酸素の海に黒い泥が造られ、有機体の豊富な物質が頁岩層と共に堆積した。
海底に生物の遺骸が堆積しアンモニアから酸が作られ、溶かされたカルシウムが、腐敗した有機物の周りを取り囲んだ。そうして出来た丸い凝固物は割った時に硫黄臭がすることがある。また、ミシガン州とオハイオ州には、オイルやガスを含む黒いAntrim頁岩層がありこの地層からガスやオイルが採掘されている。(Fig.1 濃い斜線部:ミシガン半島北部沿岸)

ケトルポイント頁岩とノジュ-ル
Photo57-1
ケトルポイント頁岩とノジュ-ル
Kettle point累層 古生代 デボン紀

ヒューロン湖湖岸のノジュ-ル
Photo57-2
ヒューロン湖湖岸のノジュ-ル
Kettle point累層 古生代 デボン紀

ケトルポイントのノジュ-ル断面
Photo58
ノジュ-ル断面
Kettle point累層 古生代 デボン紀

アルコナ

地図上の位置(Fig.1) 番号⑩
アルコナ(Arkona)の地質年代は、ナイアガラ・エスカープメントより新しく、デボン紀(4億9百万年前~3億6千7百万年前)の地層である。デボン紀の赤道はミシガン・ベイシンに最も近い場所にあり、現在のカリブ海や南太平洋の島々のような珊瑚礁が発達した。熱帯の環境が約1億2千万年間続き、生物の爆発的な増加と多様性をもたらすことになった。

この時代の化石は分厚い石灰岩や頁岩層の中に堆積した。
アルコナ(Arkona)の化石産地は、河川の浸食でデボン紀の地層が露出した場所である。石灰分を含んだグレーの頁岩層は、風雨や気温の変化で風化されて粘土のようになっている。その柔らかい土中と川岸にブラチオポッドやホーン・コーラルがたくさん見つかった。

ブラチオポッド(Brachiopods)の名前の由来は、ラテン語のBrachio=Arm(腕)、pod=foot(足)である。二枚貝のような外観をして、形の違う背殻と腹殻を持っているのが特徴。泥質や粘土質の海底で、殻の根元から肉茎を出し、殻の部分を持ち上げて体を固定していたようである。そして殻を開き、房担ぎ構造と呼ばれる粘液のついた繊毛で、微生物の遺骸や有機物をくっ付けて食べていたようである。カンブリア紀に出現し、オルドビス紀からペルム紀の間に増えて高い多様性を示し、26種が確認されている。

アルコナのブラチオポッドは、一般にスピリファーと呼ばれる種類の Mucrospirifer である。ホーン・コーラルは、ラッパの先端からイソギンチャクのような触手を出して獲物を捕食していた大型のサンゴである。写真のように、頁岩が風化して柔らかくなった土の中に、たくさん見つける事が出来た。

アルコナ
Photo59
川の崖 アルコナ
上:Widder累層 頁岩(上)と石灰岩
下:Hungry Hollow累層 石灰岩(上)と頁岩
古生代 デボン紀

アルコナ
Photo60
川の崖 アルコナ
古生代 デボン紀

Microspirifer
Photo61
マイクロスピリファー アルコナ
Widder累層上部 古生代 デボン紀

ホーンコーラル
Photo62
ホーンコーラル(サンゴ) アルコナ
Widder累層下部とHungry Hollow累層の境 古生代 デボン紀

ペトロリア

地図上の位置(Fig.1) 番号⑪
ペトロリア(Petrolia)は1858年に開発された北米で最初の商用油田である。
油田は後期デボン紀の石灰質頁岩層で、酸素が少なく有機物がたくさん堆積した黒い泥の海底だった。有機物を含む堆積物は、さらに堆積が続いた後、圧力や熱の影響を受け、オイルとガスを含む ケトルポイント頁岩(Kettle point shale)になった。
Nodding donkey
Photo63
Nodding donkey
首ふりポンプ ペトロリア

汲み上げられた原油
photo64
汲み上げられた原油 ペトロリア

◆石炭紀とアパラチアン造山運動

3億2500万年前から2億6千万年前ゴンドワナ大陸の一部(アフリカ)とユーラメリカ大陸(北米)が衝突しパンゲア超大陸の一部になった。衝突が続く間、アパラチアン造山運動が起きアパラチアン山脈が形成された。
ミシガン・ベイシンではカナダ楯状地のアーチ(鞍部)からの堆積物がミシシッピアン紀、ペンシルバニアン紀(石炭紀内の前期と後期)の地層を造った。

ミシシッピアン紀系の地層はミシガン・ベイシンの中央から北東側で最大層厚719mである。ミシシッピアン紀の地層内には不整合面があり、他の地域で見つかるChesterian世の地層が層内にはなく、浸食されていた時代があった事がわかっている。大量の頁岩と下部の砂岩、シルト、石灰岩、石膏層が堆積しており、当初はサンゴ礁の浅い海や乾燥湖があったと考えられている。堆積物の大部分は北東のカナダ楯状地から供給され、北西のウイスコシン高地からの供給は少なかった。砂岩層と石灰岩層はオイルやガスを含んでいる。また、Coldwater累層とMarshall累層の砂岩は回転研磨用の大型丸砥石や石畳として採石された。

ペンシルバニアン紀の岩石は、ミシガン半島南部に広く分布しており、下部は砂岩、中部は砂岩、頁岩、石灰岩、石炭層、上部は砂岩層である。ペンシルバニアン紀前期の堆積地域は東の河川から連続して堆積物が供給され、堆積岩の粒度の研究から幾度か洪水が起きた事がわかっている。また、陸化して浸食されたり沈降して海に戻ったり、不規則な沿岸の堆積物が多く、石炭層も含まれている。ミシガン・ベイシンの西はサンゴ礁の浅い海があり、東は沼地で河川によるデルタが広がっていた。

◆ウィスコシン氷期とローレンタイド氷床

新生代第四紀 約8万年前頃から氷河期(2万3千年前~1万2千年前)になった。北米大陸の西側はコルディエラ氷床に覆われ、カナダの大部分はローレンタイド氷床に覆われた。また、北ヨーロッパ、西部シベリアなども氷床に覆われ、海面は現在より150m低くなった。この氷期はウィスコシン氷期と呼ばれる最終の氷河期だった。ローレンタイド氷床は中央部で3千メートルの厚みを持ち巨大な亀の甲羅のような形で、ハドソン湾を沈下させハドソン湾ベイシンを造った。

ローレンタイド氷床

*氷床=面積50,000km2以上の氷河の集合体 カナダの面積は、984,670km2

氷床が融け始めると氷河の移動が、北米大陸の北部から中部にかけての地表を削り大山脈などの標高が高い場所を平らにした。また氷床は五大湖の底部を形成し大量の水は氷河湖から大西洋に流れて、セントローレンス川を造った。この氷床はアパラチアン山脈を削り現在の高さにした。カナダ東部ではモレーンなどの氷河堆積物が広範囲に残り、コンクリートやアスファルト用の砂利として採石されている。

ラファージ カレドンピット

地図上の位置(Fig.1) 番号⑤
Lafarge Calledon Pit
Photo65
Calledon Pit モレーンや苦灰岩の採石場

あとがき

ミシガン・ベイシンと言う名前を知っている方は少ないと思います。私もカナダに行く前は全く知りませんでした。ナイアガラの滝へ行く機会があり、途中で道路の右手に長く続く山が目につきました。特徴のある地形を見て不思議だったことがきっかけでした。その後も色んな所で沢山の地形と地質を見て興味を持ち調べました。面白さが連続し、点が線になるような感じで知識がつながっていきました。鉱物が好きな読者へお勧めしたい事があります。採集した鉱物が、どんな地質で生まれたのか調べてみましょう。きっと新しい知識の喜びを得られる事と思います。地球が生んだ鉱物がどんな風にできたのか?それを知る事で鉱物がもっと楽くなります。


スターミネラルズジャパンのページを別ページで表示

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です